大阪地方裁判所岸和田支部 平成6年(ワ)75号 判決 1997年11月20日
全事件原告
滝吉平
(以下「原告」という。)
右訴訟代理人弁護士
金子武嗣
同
秋田真志
同
森下弘
第一、第九事件被告
西納住建有限会社
右代表者代表取締役
西納明
第二事件被告
澤田満義
外一名
第三事件被告
下中康弘
外一名
第四事件被告
土井康正
外一名
第五事件被告
鈴木弘司
第六事件被告
上北耕司
第七事件被告
菊地栄男
第八事件被告
杉山誠一郎
外一名
(右第一ないし第八事件被告をまとめて、以下「被告ら」という。)
第九事件被告
西納市右エ門
右一三名訴訟代理人弁護士
南輝忠
主文
一 被告らは、別紙図面1ないし34及び1の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地について自動車(自動二輪車、小型特殊自動車を除く。)をもって通行してはならない。
二 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 原告と第九事件被告らとの間において、別紙図面1ないし34及び1の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地が原告の所有であることを確認する。
四 訴訟費用は全事件を通じてこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 第一ないし第八事件
(主位的請求)
1 被告らは、原告に対し、別紙図面1ないし34及び1の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地について、被告らの通行権が不存在であることを確認する。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
(予備的請求)
1 被告らは、別紙図面1ないし34及び1の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地について車両(自転車、荷車など軽車両を除く。)をもって通行してはならない。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
(第三次的請求)
1 被告らは、原告に対し、別紙図面1ないし34及び1の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地につき、原告が別紙物件目録(一)記載の田について①田植え作業、②草取り作業、③稲刈り作業の農作業をする際に、車両(自転車、荷車など軽車両を除く。)により、自ら通行し、または第三者をして通行させてはならない。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 第九事件
1 主文第三項と同旨
2 訴訟費用は第九事件被告らの負担とする。
第二 事案の概要
本件は、別紙図面1ないし34及び1の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地について、被告らが通行権(徒歩のみならず、自動車による通行をする権利をも含む。)を有するかが争われている事案(第一ないし第八事件)と、右土地部分の所有権の帰属が争われている事案(第九事件)である。
一 争いのない事実
1 原告は、昭和三〇年一二月二九日、西田力(以下「西田」という。)から貝塚市麻生中字ツブライ一一一二番の土地(後に別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)と同所同番の二の土地に分筆された。以下、これらをまとめて「旧一一一二の土地」という。)を買い受け、以後本件土地において稲作を行うなど農地としてこれを利用している。
2 被告西納市右エ門(以下「市右エ門」という。)は、本件土地の西側に隣接する別紙物件目録(二)記載の土地(以下「一一一四の土地」という。)を所有し、農地としてこれを利用している。
3 被告西納住建有限会社(以下「被告会社」という。)は、本件土地の西側、一一一四の土地の南側に隣接している別紙物件目録(三)記載の土地(以下「一一一三の土地」という。)を所有している。
4 本件土地と一一一四の土地及び一一一三の土地の境界付近には南北に長さ約七〇メートル、幅二メートル余りの通路、すなわち別紙図面1ないし34及び1の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「本件通路」という。)が存在する。
なお、本件通路は、当初は行き止まりであったところ、昭和四〇年ころ及び昭和四九年ころの二度にわたり、それぞれ奥の田の所有者らが農作業の利便のために共同で本件通路の南側に合計約一〇〇メートル通路を延長したが、その先は現在も行き止まりとなっている。
5 被告会社の代表者である西納明(以下「明」という。)は平成元年一二月二七日に、被告会社は平成四年六月一五日に、本件通路の南側に延長された通路に接する貝塚市麻生中字大下代一一八七番地の土地及び右同所一一八六番一の土地(以下「一一八七の土地」、「一一八六の一の土地」等という。)をそれぞれ取得した。
明及び被告会社は、右両土地を宅地化したのち、これを分筆してその上に建売住宅を建築するなどしてそれぞれ第二ないし第八事件被告らに分譲した結果、現在は、右被告らが別紙物件目録(四)記載の各土地を所有し、その土地上に同目録記載の各建物を所有して、そこに居住している。
6 なお、原告と明は共に地元に生まれ、居住してきた元同級生であり、互いに昔からよく知っている間柄であり、明と被告市右エ門は従兄弟という身分関係にある。
二 主張
〔第九事件〕
1 原告
(一) 本件通路は昭和四年ころ、当時の旧一一一二の土地の所有者であった西田が、自己の農作業の利便のために、同土地の西端部分を自らの費用で造成し、農作業用の通路として利用を始め、奥の田の耕作者らにも通行を認めてきたものである。
(二) 原告は、昭和三〇年一二月一九日、本件通路を含む本件土地(旧一一一二の土地)を西田から買い受けた。
(三) したがって、本件通路は、すべて原告の所有である。
2 第九事件被告ら
(一) 本件通路は昭和五〇年ころコンクリート舗装されたが、その際、被告市右エ門は、一一一四の土地の東端部分を一〇ないし二〇センチメートル程度本件通路を拡幅するのに無償で提供した。
したがって、本件通路には、被告市右エ門所有の一一一四の土地の一部が含まれている。
(二) 本件通路の南端には被告会社所有の一一一三の土地の一部が含まれている。
〔第一ないし第八事件〕
1 原告
(一) 原告も、西田と同様に、奥の田の耕作者らに対し、農作業のために本件通路の通行を認めてきたが、それは奥の田の耕作者という限定された者に対して、農作業のために好意的に無償で通行を許してきたものに過ぎないから、被告らに何らかの通行権が存する訳ではない。
(二) 本件通路は、あくまでも原告とその周辺の農作業を営む農家のための農作業の利便を目的とするものであって、一般的に車両による通行を予定していないから、仮に被告らに何らかの通行権があったとしても、その通行の態様は、あくまで徒歩もしくは軽車両(自転車、荷車等)など農作業の妨害にならないものに限られる。
(三) また、仮に車両による通行が認められるとしても、①田植え作業、②草刈り作業、③稲刈り作業を行う際に本件通路を車両が通行すれば右農作業の妨害になるから、少なくとも原告が本件土地において右農作業中の際には車両の通行は禁止されるべきである。
2 被告ら
(一) 通行地役権
本件通路は、半田地区集落から本件通路に至る農道の延長として、大正末期から昭和四年ころの間に、地元の人たちの協力を得て半田地区が造成、開設したものであり、開設後は半田地区が維持、管理してきた。
したがって、本件通路の開設に際して、その隣接する一一一四の土地、一一一三の土地等のために通行地役権が設定されたものである。
そして、その周辺の土地所有者は、右通行地役権の反射的効果として、本件通路を通行する権利を有する。
(二) 慣習上の通行権
仮に通行地役権が認められないとしても、
①本件通路の開設の経緯及びその後の維持・補修
(本件通路は昭和四年ころまでに農道として開設され、その後、昭和四〇年及び四九年ころ延長され、昭和五〇年ころには貝塚市から舗装資材の支給を受けて、半田地区農民によりコンクリート舗装された。)
②時代の変化
(昭和四五年六月ころ、本件通路周辺一帯は、都市計画法上の市街化区域の内の住居地域に指定された結果、本件通路周辺の土地が農地としての効用が終わり、市街化(宅地化)されることがその土地の効用を全うする所以となった。)
③半田町会、貝塚市、大阪府の認識・見解
(半田町会は本件通路を「公道に準ずる道路と認識・確認」しており、貝塚市は本件通路は「一般公衆の通行の用に供する道路として、本市で維持しています。今後とも、同様に維持してまいります。」との見解を表明しており、大阪府は本件通路を建築基準法第四三条一項但書にいう「安全上支障がないもの」として、建築を確認・許可している。)
などの点に照らせば、被告らには慣習上の通行権が存在する。
(三) 囲繞地通行権
仮に、前記の通行権が認められないとすると、被告らの所有土地は袋地となるから、被告らには囲繞地通行権が存在する。
そして、被告らの通行の「場所及び方法」として、「必要にして且つ囲繞地のために損害の最も少ないものを選ぶ」とすれば、本件通路を選ぶのが最も合理的である。
(四) 車両(自動車)による通行
本件通路が舗装されたのは、自動車が普及し、農作業にも車で通う人が多くなったためであり、原告も本件通路の奥の農地所有者が自動車で通行することは認めている。
被告らは、農業を営むものではないが、それぞれの所有地を宅地として購入し、大阪府の建築確認を得て家を建て、居住しているのであって、本件通路を自動車で通行することについては、農作業のために自動車で通行する場合と何の違いもない。
したがって、被告らの前記の通行権には、当然、車両(自動車)による通行が含まれる。
三 主たる争点
1 本件通路の所有権(第九事件)
本件通路には原告所有の本件土地の他に、一一一四の土地ないしは一一一三の土地が含まれるか否か
2 被告らの本件通路に対する通行権の有無(第一ないし第八事件)
通行地役権
慣習上の通行権
囲繞地通行権
通行権が存する場合には車両(自動車)による通行も含まれるか
第三 争点に対する判断
一 本件紛争に至る経緯等
1 末尾に掲記の各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件土地の周辺の状況は、西側に貝塚市道(大正一四年三月ころ市道と認定された。)が、東側には府道大阪和泉泉南線(昭和一二年ころ造成された。)がそれぞれ南北に通っており、右二つの主要道路へ、幅員約四メートルの道路が本件土地の北側を東西に結んでおり、現在は、右東西道(以下「本件東西道」という。)の北側には府営住宅が連なっており、南側(本件土地側)はほとんどが田である。
(当事者間に争いがない。)
(二) 大正時代においては、本件土地の周辺はすべて田であり、その北側に存した集落(半田地区)から本件土地の水路を隔てた北西端まで、周辺の土地所有者が土地の一部を提供するなどして開設した幅員約1.8メートルの農業用通路(以下「本件北側通路」という。)が存在した。
(検甲一八、証人竹内泰一郎、同﨑清、原告(第一、二回)、被告会社代表者、被告市右エ門)
(三) 旧一一一二の土地の前所有者であった西田は、本件北側通路の南端から先は肥料や収穫物を担って搬出入していたが、昭和四年ころ、南北に長い旧一一一二の土地の農作業の効率を上げるため、本件土地の西側部分を自らの手で造成し(西田は農業を営む傍ら建築・土木業をも兼業していた。)、農作業用通路を開設して本件北側通路に接続した。
西田は、その後は右通路を利用して農機具の搬入や収穫物の取り入れ等旧一一一二の土地の農作業を効率的に行うとともに、右通路の奥に農地を所有していた林孝子(明が所有権を取得した一一八七番の土地の元所有者)、阪口忠治郎(被告会社が所有権を取得した一一八六番の土地の元所有者)ほか五、六軒の農家の人たちが農作業のために右通路を通行することを認めていた。
(甲四、六、七の1ないし3、八ないし一一、検甲一八、証人竹内泰一郎、同松﨑清、原告(第一、二回))
(四) その後、昭和二七、八年ころ、本件土地の北側の水路に沿ってあった畦道の周りの土地の所有者が土地を提供し、約2.5ないし三メートルの道路が開設され、昭和三四年ころその北側に府営住宅が建設される際に府営住宅側から土地提供があり、現在の本件東西道の状態になった。また、その際、本件北側通路も同様に拡幅され、以後は周辺住民の生活道として利用されている。
(甲二、二一の1、検甲一九の1、2、検乙九、原告(第一回)、被告会社代表者)
(五) 原告は、昭和三〇年に西田から通路部分を含めた旧一一一二の土地を取得したが、西田と同様本件土地の南側の田を耕作する人たちが農作業のため本件通路を通行することを認めていた。
なお、原告は、昭和四二年三月に旧一一一二の土地を本件土地と一一一二の二の土地とに分筆し、西友雄との間で後者と一〇九九の土地とを交換した。
(甲四、八、二一、乙一、証人竹内泰一郎、同松﨑清、原告(第一、二回))
(六) 本件土地の南側に田を所有して本件通路を利用していた人たちは、昭和四〇年ころ、相互に土地や金銭を出し合って、本件通路の南側に約五〇メートルの通路を延長し、昭和四九年ころには同様にしてさらに東側に約五〇メートル程度の通路を延長した(以下、両者をまとめて「本件延長通路」という。)。
(甲一、二、乙一九、証人西﨑清、原告(第一回))
(七) 昭和五〇年ころ、半田地区の水利組合あるいは農業実行委員会が中心となり、農業用施設として生産向上のため、農道の舗装化を進める一環として、貝塚市から生コンクリートの無償支給を受け、周辺農民の労力の提供を得て他の何ヵ所かの農道とともに本件通路及び本件延長通路についても右コンクリートによる簡易舗装工事を行った。
(乙六九、証人西﨑清、原告(第一、二回)、被告会社代表者、被告市右エ門)
(八) 宮下益博は、昭和四六年七月、一一八六の一の土地を取得し、原告に対し、右土地に建物を建築したいので本件通路を通行させて欲しい旨申入れたが、原告から本件通路は農作業用のものであるとして右申入れを断わられたため、建物の建築を断念し、昭和五六年四月、宅地に地目変更するとともに大一建設株式会社に右土地を売却した。
大一建設株式会社は、改めて、原告に対し、右土地に建物を建築したいので本件通路を通行させて欲しい旨申入れたが、原告からやはり本件通路は農作業用のものであるとして右申入れを断られたため、結局建物の建築を断念した。
(甲六、一二、乙五、八、原告(第一、二回)、被告会社代表者)
(九) 明は、右の事情を知りながら、平成元年一二月二七日、一一八七の土地を取得し(その後平成四年一二月二一日付で被告会社に譲渡した。)、また、被告会社は、平成四年六月一五日付で、大一建設株式会社から一一八六の一の土地を購入した。
(甲一八の1、乙五、八、被告会社代表者)
(一〇) 明は、一一一七の土地及び一一八六の一の土地上に建売住宅を建築することを計画し、平成四年五月末から六月初めころ、市右エ門の承諾を得、同人所有の一一一四の土地内の本件通路の脇に鉄板を敷きつめて幅員約三メートルの道路(以下「本件鉄板道」という。)を開設し、工事用のトラックを通行させ、土砂を搬入して右両土地を埋め立て造成した(一一八七の土地は平成四年七月に雑種地に地目変更された―乙八)。
なお、明は、平成四年七月初めころ、原告に対し、本件通路の通行の承諾を求めたが、原告からは本件通路はあくまで農作業用の通路であるとしてそれ以外の目的の通行を拒否された。
(甲二一の1、四三、検甲一の4、5、一四ないし一七、二二の3、4、二三、乙三四、三八、原告(第一回)、被告会社代表者、被告市右エ門)
(一一) その間、明及び被告会社は、右両土地を分筆して建売住宅を建築すべく手続を進め、本件通路を建築基準法四二条二項道路として建築確認申請を行ったところ、大阪府からは同法四三条一項但書の道路として建築確認を得た。
また、明及び被告会社は、給水管の敷設に関しても、本件通路が「公衆道路」であるとして町会長、水利組合の同意書を添附のうえ申請したところ、本件通路が個人所有であることを看過した貝塚市から本件通路に給水装置兼工事施工についての許可を得た。(ただし、後に本件通路が個人所有であることを知った貝塚市から、土地所有者の同意がない限り、給水管の敷設の許可ができないとして、前の許可が取り消された。)
(甲一六、二〇、乙八ないし一〇、一二ないし一六、三一、七〇、七一の1ないし4、八六、八七の1ないし7、原告(第一回)、被告会社代表者)
(一二) 原告は、明及び被告会社が建物建築手続をどんどん進めるので、いずれ紛争になるかもしれないと考え、平成四年六月二一日、本件土地の範囲を確定しておくべく、午前中には西友雄らとの間で、本件土地と一一一二の二の土地、本件土地に南接する原告所有の一〇九九の土地とその南側の一一〇〇の土地との境界の確認手続を行い、午後からは被告市右エ門との間で、本件土地と一一一四の土地との境界を確認した。
(甲二五の1ないし5、原告(第二回)、被告市右エ門)
(一三) 原告は、その後も明及び被告会社が本件鉄板道を利用して建物建築工事を進めるので、益々紛争の危険を感じ、平成四年一二月、本件通路の北側の入り口付近に、第三者に公示する目的で、本件通路は原告の所有であり関係者以外の通行は認めない旨の看板を設置したところ、何者かの手で右看板が黒く塗潰されてしまったので、平成五年一月二六日、明及び被告会社を相手に①本件通路の通行権の不存在確認及び②本件通路の通行、掘削の禁止を求めて訴えを提起した(第一事件)。
原告は、その後も二度にわたり、第三者が事情を知らないまま被告会社から土地を購入し、本件の紛争が拡大しないよう、本件通路の通行につき争いがある旨公示する看板を設置したが、明によって撤去されたり何者かによって黒く塗潰されたりした。
(検甲一の1、2、三、四、七ないし一一、原告(第一回)、被告会社代表者)
(一四) 明及び被告会社は、本件訴訟係属中にも建物建築工事を進行し、次々と建物を完成させ、敷地とともに第二事件ないし第八事件被告らに分譲し続け、工事が完成終了した後の平成六年一一月二八日に本件鉄板道を撤去したため、その後は右各建物の居住者は本件通路を通行して本件東西道に至っている。
また、明及び被告会社は、給水管の設置については、本件通路に埋設することを諦め、被告市右エ門の承諾を得、同人所有の一一一四の土地内に本件通路に沿って埋設した。
そのため、原告は、土地所有者でなくなった明に対する請求を取り下げ、本件通路の掘削禁止を求める請求を取り下げるとともに、新たに右両土地を譲り受けた第二事件ないし第八事件の被告らに対し、本件通路の通行権の不存在確認を求めて順次訴えを提起した。
(甲一八の1ないし6、二八、三一、四三、乙五ないし一〇、七一の4ないし15、検甲五の1、2、原告(第一回)、被告会社代表者、被告市右エ門)
(一五) なお、本件訴訟係属中、原告から被告らに対し、本件通路の通行禁止を求める仮処分(以下「原告申請仮処分」という。)、被告らの一部から原告に対し、本件通路の使用妨害禁止の仮処分(以下「被告ら申請仮処分」という。)の各申立がなされ、原告申請仮処分は却下され、これに対する即時抗告も棄却されたが、被告ら申請仮処分は認容され、原告は、これに対して異議を申し立てたが、本件訴訟の弁論終結後の平成九年一〇月に(本件訴訟に一本化するとして)右異議申立てを取り下げた。
(乙九五、九七)
2 これに対し、被告らは、当初は、本件通路は、本件延長通路をも含めて、本件北側通路と同様、周辺土地所有者が互いに土地を出し合って開設した通路の一部である旨主張し、明及び被告会社もかかる前提に立って建物建築を進めてきたのであるが(甲二九、乙二二参照)、本件通路の開設の経緯及びその後の状況は前記(二)、(三)、(六)、(七)等において認定したとおりであって、明や被告市右エ門も、証拠調べが進む中で、少なくとも本件通路の開設にあたっては西田一人の土地提供でなされたものであることを認めるに至っている。(ただ、明は、半田町がその後西田から本件通路を買取った旨供述するが、これを裏付ける的確な証拠は存しない。)
そして、本件訴訟の当初に被告側から提出された証拠(それらは明及び被告会社が建築確認申請や給水装置兼工事施工許可申請等に用いた書面が中心であるが)には、他の客観的資料とは一致しない部分が少なからず存在し、右証拠中、前記認定に反する部分は採用しない。
(例えば、明が貝塚市に提出した「道路等調査願」(甲一六)には、本件通路に関し、「1、昭和初期には既に現在の道路形態になっていた(年輩の町会長経験者に確認済)、2、昭和二六年頃の町会長〔故西納市雄氏(明の伯父で被告市右エ門の父―甲一五)〕に生前私はその当時半田町の農道等に関して町が地主から年貢を払い賃借している部分の買い上げ作業を実施、順次買い上げていった。他にもこの事実を承知している人もあります。3、聞く処によると調査依頼道路については当時町が地主から買い上げた書類の証は紛失したらしく見当たらないが以前の年貢の支払についてはそれ以後なくなっている。」と何ら資料による裏付けのない、事実と異なる説明(被告らは本訴においても係る主張は行っていない。)がなされており、かかる説明がその後の行政手続の判断の相当性に影響を及ぼした可能性が高い。)
3 以上、要するに、本件北側通路は周辺土地所有者から土地の提供を受けて開設され、その後大阪府によって拡幅され、周辺住民の生活道として利用されてきているのに対し、本件通路は個人の負担により開設され、その先は行き止まりであって、これまでは本件通路及び本件延長通路の両脇の農地所有者が農作業のために行き来する程度の利用状況であったところに、明及び被告会社が、新たに十分な生活用道路を確保することなく、一一八六の一及び一一八七の両土地に建売住宅を建築し、分譲を開始したため本件紛争に至ったことが認められる。
二 争点1について
1 一一一四の土地との関係
(一) 本件通路開設当時、西田が自己の所有地を本件通路の敷地として提供したものであり、その通路の敷地はすべて西田の所有であったことについては、被告市右エ門も認めるところである。
被告市右エ門は、前記一、(七)に認定の本件通路を舗装した際に、一一一四の土地の一部を無償で提供した旨主張し、本人尋問においても、右舗装のためにコンクリートの型枠を設置する際、現場において被告市右エ門が了承し、旧来の道路から一〇ないし二〇センチメートル程度一一一四の土地に入り込んで設置し、コンクリート舗装を行った旨供述する。
(二) しかしながら、被告市右エ門の右供述は、その土地の提供の範囲が曖昧なうえ的確な資料が存しないこと、土地が高騰した高度経済成長後の昭和五〇年ころに幅一〇ないし二〇センチメートル、長さが約七〇メートルにもわたり、無償で土地を提供するなどということは希有な事柄であり、もしかかる事実が存するのであれば広く周囲の人々の話題に上るであろうことが想像に難くないが、他に右土地提供の事実を裏付ける客観的証拠が存しないうえ(逆に、証人西﨑は、舗装の際に本件道路が拡張された事実はない旨証言する。)、本件訴訟に至るまでの間に被告市右エ門が右土地の提供をした旨を対外的に明らかにしたことを認めるべき資料が存しないことなどの諸点に照らせば、にわかに信用することはできない。
(三) そもそも本件土地と一一一四の土地との間には四〇センチメートル程度の高低差があり、本件土地の方が一一一四の土地より高かった(甲三二、証人西﨑清、原告(第二回)、弁論の全趣旨)ことから、旧来の通路の一一一四の土地側にはかなりな法裾が広がっていたことが推認できること、したがって、その法裾に型枠を設置したものとする原告本人の供述(第二回)は合理的なものであると認められること(その結果、本件通路の幅自体は変化はなかったものの、本件通路の有効幅員が増えたと認められる。)、被告市右エ門がこれまで原告や他の者に対し本件通路に被告市右エ門の所有地が含まれていると話したことがないこと(証人西﨑清、原告(第二回))、被告市右エ門は、前記一、(一二)に認定のとおり、平成四年六月二一日に原告との間で本件土地と一一一四の土地との間の境界の確認を行っており、原告はその直後に本件通路上に境界石を設置した(検甲一の2、3、検乙五二ないし五八、被告市右エ門)のであるが、被告市右エ門からは、少なくとも同年の年末に至るまでには何ら抗議を受けたことはなかったこと(乙二〇、原告(第二回)、弁論の全趣旨)などの事実に照らせば、本件通路には一一一四の土地が含まれていないと認めるのが相当である。
なお、被告市右エ門は、前記境界確認の立会の際は、本件通路と一一一四の土地との境界を明らかにしたに過ぎず、本件土地と一一一四の土地との境界を明らかにしたものではない旨供述する。しかしながら、その趣旨は必ずしも明確ではないうえ、本件通路と被告市右エ門の占有する土地との境界は外形上から一見して明らかであるし、それを原告、被告市右エ門で確認する意味もないから、右供述は前記認定を左右するものではない。
2 一一一三の土地との関係
(一) 被告会社は、一一一三の土地の一部が本件通路に含まれている旨主張するが、その位置及び範囲を明確にすることができない(乙八三の1参照)。
(二) ところで、証拠(甲二五の1ないし5、二六、二七、三二、四三、四八、検甲一の5、一九の1、2、検乙一六ないし一八、証人松﨑清、原告(第一、二回))並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 一一一三の土地は、旧一一一二の土地と同様、元西田の所有土地であり、公簿面積が一九平方メートルと小さく、一一一二の土地の排水路を兼ねたいわゆる溝田であった。
(2) 一一一三の土地と旧一一一二の土地との間には旧一一一二の土地と一一一四の土地との間と同様高低差があったため、西田は、旧一一一二の土地内に本件通路を開設した。
(3) 原告が西田から旧一一一二の土地を取得した後は、一一一三の土地は西田によって十分管理されないまま放置されたため、草が生い茂り、周辺の農地とは異なった状況であった。
(4) 原告と一一一二の二の土地の所有者である西友雄との間で、平成四年六月二一日、本件土地と一一一二の二の土地との境界を確認した結果、両土地の境界は別紙図面19及び20を通る直線であるとして、同19点に境界石が設置された。
(三) これらの事実を総合すれば、一一一三の土地は、その東側を水路に、西側を本件通路に、北側を一一一四の土地に囲まれた三角形の土地と認めるのが相当であり、本件通路は、すべて本件土地の一部であると認めるのが相当である。
3 以上の結果、原告の第九事件被告らに対する請求は、いずれも理由がある。
二 争点2について
1 通行地役権について
(一) 被告らは、当初、本件通路の周辺の土地所有者が互いに土地を出し合って開設したものであり、右開設において互いに通行地役権を設定したものであると主張していたが、前記認定のとおり、その前提が明らかに異なるため右主張は到底採用できない。
(二) 被告らは、その後、本件通路を本件北側通路及び本件延長通路と一体のものとして捉え、本件通路の開設により、その隣接する一一一三の土地や一一一四の土地などに通行地役権を設定したものである旨主張する。
しかしながら、本件北側通路や本件延長通路は、その開設時期が本件通路の開設時期とはかなり異なり、また、開設の目的、開設方法も本件通路のそれとは大幅に異なるのであって、三者を一体のものとして理解することは困難である。
また、被告らは、西田が本件通路を村(半田地区)に寄付したとも考えられる旨主張するが、これを認めるに足りる証拠も存しない。
(三) したがって、いずれにしても、被告らが本件通路に通行地役権ないしはそれに伴う反射的効果としての通行の自由を有する旨の主張は採用できない。
2 慣習法上の通行権について
被告らは、①本件通路の開設の経緯及びその後の維持・補修、②時代の変化、③半田町会、貝塚市、大阪府の認識・見解などの点に照らせば、被告らには慣習上の通行権が存在する旨主張する。
しかしながら、
①、本件通路の開設の経緯は前記認定のとおりであり、被告らの主張事実とは必ずしも一致しないうえ、
②、本件土地を含む周辺の地域が都市計画法上の市街化区域に指定されたとしても、本件通路及び本件延長通路の両側の土地は大部分が農地として耕作されており、明及び被告会社が建売住宅を建築するまでは、本件通路は右農地の耕作者らが通行しているに過ぎなかったこと、そして、現在でもなお本件通路及び本件延長通路の両側の土地の多くは農地として耕作されていること(検乙九、証人松﨑清、原告(第一回))
③、半田町会、貝塚市、大阪府の認識は必ずしも正確な事実を把握したうえでの認識とは認められない(すなわち、貝塚市に提出された道路等調査願(甲一六)の記載内容が正確でないことは前記認定のとおりであり、貝塚市作成の調査報告書(乙八六、八七の1ないし7)はこれを前提に「一般公衆の通行の用に供する道路」と認定していることが窺えるうえ、「本市で維持しています。」との記載の具体的内容としては、簡易舗装の際に生コンクリートを無償支給した事実以外の事実が認められないこと、また、半田町会が発行した確認書(乙三一)にも「貝塚市の見解と等しく公道に準じる道路と認識している」旨の記載があるものの、右半田町会長は被告市右エ門(前会長)の甥であること(甲一五)をも考慮すれば、その証明力は些か減殺されるものと言わざるをえないこと、さらに、被告らは、大阪府において建築確認許可がなされていることを根拠にその合法性を強調するが、大阪府が本件通路の実態をどの程度正確に把握して建築確認許可を下ろしたのかについてはなお検討の余地がある。)こと
などを考慮すれば、被告らに慣習法上の通行権が存在するとまでは認められない。
3 囲繞地通行権について
(一) 証拠(甲一、二、三五)によれば、被告らの所有地はいずれも袋地であることが認められる。
したがって、被告らには囲繞地通行権が認められるというべきである。
(二) これに対し、原告は、被告らは他の土地を通って公道に出ることが可能であるから被告らの所有地は袋地でない旨主張するが、原告のいう通行可能な土地とは第三者の庭先や駐車場部分である(甲二一の1、2、検甲一二の1ないし4、二七の1ないし8、乙五七ないし五九)から、右主張は到底採用できない。
また、原告は、明及び被告会社が一一一四の土地に本件鉄板道を開設したから、被告ら所有地は袋地ではなくなった、仮に鉄板の撤去により袋地に戻ったとしても、それまで通行に供していた本件鉄板道を自らの都合で撤去したのであるから、民法二一三条一項、二項の適用または類推適用により、囲繞地通行権は発生しない旨主張する。
しかしながら、本件鉄板道は、その目的が建物建築までの資材等の搬入等一時的なものであり、その形態も農地に鉄板を敷き並べただけの簡易なものであって、これをもって公路に通じる通路と認めることはできない。したがって、また、これを撤去したからといって、民法二一三条一項、二項の適用または類推適用することも相当でない。
(三) 以上のとおり、被告らは、囲繞地交通権を有するところ、その通行の場所及び方法は通行権を有する者のために必要にして且つ囲繞地のために損害の最も少ないものであることを要するところ(民法二一一条一項)、本件においては、本件通路が通路として開設されているのであるから、これを通行することが両当事者の利害を最もよく調整するものである。
したがって、原告の被告らに対する主位的請求は理由がない。
4 車両(自動車)による通行について
(一) 被告らは、本件通路について認められる通行権には自動車によって通行する権利が当然含まれている旨主張するのに対し、原告は、車両(ただし、軽車両を除く。)による通行は認められない旨主張する。
(二) すでに認定した事実及び証拠(検甲二ないし四、二〇ないし二二、三〇ないし三四、三六ないし四〇、検乙一ないし一五、二三、二四、六二ないし七六、八〇ないし一三八、証人松﨑清、原告(第一、二回)、被告市右エ門)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 本件通路は、長さが七〇メートルもある反面、幅は二メートル余り(場所によっては二メートルを切る部分も存する。)と狭く、やや蛇行しており、途中において車両同士が対向できないのはもちろん、車と歩行者が行き違うことすらも困難であること
(2) 本件通路が舗装されたのは昭和五〇年と古く、かつ、コンクリートの厚みが三、四センチメートル程度の簡易舗装に過ぎないため、所々にひびか入り、自動車による日常的通行には耐久性上、安全上も問題があること
(被告らは、本件通路が舗装されたのは自動車が広く普及したため自動車による通行が予定されたためである旨主張するが、前記一、1、(七)認定のとおり、右舗装はあくまで農業の振興策として為されたものであり、通路の草刈りや補修などの負担の軽減及び農機具の搬入あるいは収穫物の取り入れ等運搬の負担軽減などが主たる目的であったのであって、生活用道路として自動車が通行することを予定していたものではまったくない。)
(3) 農地の脇の通路においては、その性質上、一時的にせよ農機具や運搬車両、苗や収穫物などが通路上に置かれたりすることもあること(もっとも、原告が示している苗の置き方(検甲三〇)などは、作業効率等に照らしても必ずしも相当とは言い難い。)
(4) 本件通路及び本件延長通路の両側には、なお耕作に供している農地が少なからず存在し、本件通路は、これまで右耕作者らによって節度ある通行が保たれてきており、今後も右耕作者らによる農作業のための通行に供される必要性は変わらないこと、
(5) 本件延長通路脇には他にも宅地化を企図している土地があり、右土地についても本件通路に囲繞地通行権が認められるところ、これが宅地開発されて同じく自動車による通行を開始すれば、なお一層本件通路の混乱に拍車がかかること
(三) これらの事情に加えて、被告らが本件通路の外に公道に接した駐車場を確保することにさほどの困難はないであろうと推認できること(弁論の全趣旨)をも考慮すれば、被告らの本件通路における囲繞地通行権には道路交通法上の自動車(ただし、自動二輪車、小型特殊自動車を除く。)による通行は含まれないものと認めるのが相当である。
原告は、軽車両以外の車両の通行の禁止を求めるが、原動機付自転車や自動車のうちでも自動二輪車、小型特殊自動車については、その形状、大きさ、重量等を考慮すれば、本件土地における農作業や交通の安全上、さほどの支障があるものとは認められないから、敢えてその通行を禁止するまでもないと認める。
三 結論
以上の結果、原告の被告らに対する主位的請求は理由がないからこれを棄却することとし、予備的請求については、主文第一項掲記の限度で理由があるからこれを認容することとし、その余は理由がないからこれを棄却することとし、また、原告の第九事件被告らに対する請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官村岡寛)
別紙物件目録(一)〜(四)<省略>
別紙図面<省略>